アウト老 中勝美の血と欲望の人生 | 高橋ユキの事件簿 #18
2017年刊行『暴走老人・犯罪劇場』(洋泉社)より
ボケる・トボける・シラをきる。法廷で繰り広げられる、アウトな高齢犯罪者―“アウト老”たちの知られざる実態
自らの罪を否認し続けたサイコキラー・中勝美の血と欲望の人生
上半身裸で血塗れの女性が「警察!警察!」と叫びながら入ってきた
"疑わしきは罰せず"−−−−ある事実の存否が判然としない場合には被告人に対して有利に事実認定をするという刑事裁判の原則だ。一時は殺人の嫌疑をかけられながらも、司法との長い闘いの末、この原則のもとに無罪を勝ち取った男がいた。ところが晴れて"正義の人"となったわずか4ヶ月後に、男は殺人未遂罪で現行犯逮捕されたのである。のちの公判では、二匹目のドジョウを狙うかのごとく平然と「無罪」を主張した。
本書では、これまで大きな事件を起こしたこともなく年齢を重ねてきたにもかかわらず、突然、凶悪犯罪に手を染めた者たちを紹介し続けてきた。だがこの男は一度「無罪」を勝ち取る前にも、人を殺している。欲望と血に染まったその人生を、殺人未遂の公判の様子とともに紹介したい。
大阪市梅田地区。新御堂筋と扇町通の交差点から南東に進むと、ラーメン屋や古いマンション、ホテルなどが立ち並ぶ一角がある。『山田レジャーランド(仮称)』とゴシック体で描かれた大きな看板がかかるビルは、ここ兎我野町の目印。スポーツクラブのような名称だが、中はスナック、人妻キャバクラ、ホテヘル店がひしめく風俗ビルだ。2014年11月5日の早朝、事件はビル2階のホテル『X』で起きた。